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秋田地方裁判所 昭和48年(ワ)150号 判決

原告

柴田八重子

右訴訟代理人

渡辺隆

被告

相場久作

右訴訟代理人

金野繁

外一名

主文

一  被告は原告に対し、別紙目録一記載の建物を収去して、同目録二記載の土地を明渡せ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は原告において被告に対して、金五二万円の担保を供するときは第一項につき仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  主文同旨

2  仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一、請求原因

1  原告は別紙目録一記載の土地(以下本件土地という)を所有している。

2  被告は本件土地上に同目録二記載の建物(以下本件建物という)を所有して、本件土地を占有している。

よつて原告は被告に対し本件建物の収去とその敷地の明渡を求める。

二、請求原因に対する認否

全部認める。

三、抗弁

1  訴外日本ブルガエリー有限会社秋田工場(代表取締役庄司恵一)は昭和四五年一一月九日、原告との間で、本件建物所有を目的として本件土地につき賃貸借契約を締結した。

2  訴外庄司恵一は右会社に金八〇万円以上の債権を有していたことろ昭和四八年五月二五日ころ、同会社から右債務の代物弁済として同会社所有の本件建物をその敷地賃借権とともに譲受けた。

3  被告は右同日ころ、右庄司から同人所有の本件建物をその敷地賃借権とともに譲受けた。

4  原告は右各借地権譲渡について承諾をしない。

5  被告は昭和四八年七月二一日の本件口頭弁論期日において原告に対し本件建物を買取るべきことの意思表示をした。

6  右同日の本件建物の時価は金八〇万円が相当である。

四、抗弁に対する認否

抗弁1ないし3の事実は否認し、同4の事実は認め、同6の主張は争う。

五、再抗弁

仮りに被告の本件土地利用権が賃借権であるとしても左記いずれの理由によつても被告主張の建物買取請求権は発生しない。左記2の場合に仮に右買取請求権が認められるとしても、譲受当時の原状に回復した上でなければ右買取請求権を行使しえない。

1  本件土地の賃貸借契約は左記の事情からみて一時使用を目的とする短期賃貸借とみるべきものである。すなわち

(1) 本件土地は前所有者永井睦子が本件建物を建築所有していた賀村義恵に対し、無償で一時的に貸していたものであつて、右永井睦子から本件土地を譲受けた原告が賀村に対し、本件土地の使用貸借契約を解除し再三その明渡を求めていたものである。しかるに右賀村とともに日本ブルガエリー有限会社秋田工場の役員であつた庄司恵一は右の事情を知悉しながら、本件建物を同会社名義で保存登記したが、同人も本件土地の明渡を求める原告に対し、賀村同様近く原告の要望どおりにする旨確約していたものである。そして延び延びになつていた本件建物収去土地明渡を確実にしてもらうため、原告は昭和四五年一一月九日前記会社の一切の権限を有すると称する庄司との間で昭和四六年一月末日(その後同年三月末日に延期)迄に本件建物を収去し本件土地を明渡す合意のもとに本件土地についての賃貸借契約を締結したものである。

(2) 原告は本件建物を収去してその敷地にアパートを建築する予定であり、庄司恵一はこれを了知していた。

(3) 本件建物は堀立小屋にも等しい建物であつた。

2  被告は賃貸人である原告に無断且つ仮処分命令に違反して本件建物に大巾な改築工事を施した。

3  被告は原告に対し地代の支払を怠つているので、原告は昭和四九年一二月一二日の本件口頭弁論期日において右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

六、再抗弁に対する認否

すべて否認する。

第三  証拠〈略〉

理由

一請求原因事実については当事者間に争いがない。

二そこで被告主張の訴外日本ブルガエリー有限会社秋田工場・原告間の本件土地賃貸借契約の成否について判断する。

1  〈証拠〉を総合すると訴外賀村義恵は昭和四三年、本件土地のもと所有者であつた訴外永井睦子から本件土地を無償で借り受け、同年一〇月本件土地上に本件建物を建築して飲料水製造業を始めたが、その後右事業の拡張を企図し、訴外庄司恵一、同湊誠一とともに日本ブルガエリー有限会社秋田工場(代表取締役湊誠一)を設立し、本件建物を現物出資の目的物として昭和四四年五月ころ右会社に譲り渡した。他方、右永井睦子は同年九月二九日原告に対し本件土地を交換により譲渡したことが認められる。

2  そして〈証拠〉を総合すれば原告は賀村に対し右使用貸借解除を理由にしばしば本件建物収去を請求したのであるが、賀村はこれに応ぜず暫時の猶予を原告に対して求めたうえ、昭和四五年からは庄司と相談のうえ右猶予期間中の本件土地使用による損害賠償として月額二、五〇〇円を原告に支払うことを決め、原告はこれを受け取つていたのであるが、原告はなおも賀村に対して本件建物の収去を要求し、賀村ならびに庄司らと交渉を持つた結果、昭和四五年一一月九日、原告と日本ブルガエリー有限会社代理人庄司恵一の間に本件土地貸借契約が締結されたことが認められる。

3  ところで〈証拠〉によれば右貸借契約締結の際取り交わされた契約書中には「無償貸借」なる文言が使用されており、加えて前記契約締結に至るまでの経緯に照らしてみると右契約内容は一見「使用貸借」の如くに解される余地がないとは言えない、しかし乙一号証(土地貸借契約書)を仔細に検討すると、右貸借期間については撤去時期を明示せず、本件建物撤去の時までとされ、且つ原告の承諾の下にではあるが本件建物の譲渡、模様替え等を為しうる旨規定され、第四条但書には右貸借契約の更新を想定した規定がおかれていること、更に、右有限会社は本件建物を撤去するまで原告に対して「迷惑代」名義として月額金五、〇〇〇円を支払う旨の合意が為されていること等から考えれば、右貸借契約は賃貸借と認めるのが相当であり、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

三そこで次に右認定の土地賃貸借契約が一時使用を目的とするものであるか否かにつき考察する。

右の判断にあたつては当該賃貸借契約締結に至る動機、経緯、契約内容、契約条項、建物の所有目的、規模、構造等の諸要素が借地法九条の趣旨に照らして検討されねばならないところ、前掲各証拠に成立に争いのない甲第四号証、証人永井与蔵の証言(第一回)鑑定人妹尾良治の鑑定の結果に前記二認定の各事実を総合すれば次の事実が認められる。

(1)  本件建物は訴外賀村義恵が清料飲料水製造工場として使用すべく、昭和四三年頃基礎工事を含め約金三八万円で建築したものであり、右使用目的からいつて土台に費用をかけ、あとは波トタンの外壁と木造亜鉛メツキ綱板葺の屋根だけのもので、天井はなく作業場部分と畳二畳分の居宅部分からなる比較的安普請のバラツク様の建物であり、昭和四八年五月二五日当時の時価は金五二万円弱であつた。

(2)  当時の本件土地の所有者永井睦子とその夫与蔵はかつて賀村義恵の夫から経済的にも世話になつたりして恩義に感じていたが、賀村義恵が事業を始めるにあたり経済的余祐がなく、援助を求められたので同人を後援すべく、賀村の事業が軌道に乗るまでのおおむね二・三年の約束で前認定の如く賀村に対し本件土地を無償で貸し与えた。

(3)  庄司恵一は昭和四三年一一月頃から賀村の右事業経営に関与するようになり、本件土地貸借の右内容、経緯についても十分知悉していた。

(4)  昭和四五年四月頃からは本件土地を譲受けた原告側からも再三本件土地の明渡の催促を受けるようになり、庄司らも本件建物を他に移転すべく種々努力を重ねたが実らず、のびのびとなつているうち原告の要望により本件土地の明渡を確実にするため前認定の本件賃貸借契約が締結された。

(5)  昭和四五年一一月九日の右賃貸借契約の締結に際しては、当初契約期間は昭和四六年一月末日と合意されたが、前記会社の当時における事実上の主宰者であつた庄司の本件建物収去の都合等を考慮し、暫時延期されることとなつたが前認定の各事実に照らせば本件建物収去の期限は原告主張の同年三月末日若しくはそれからあまりかけ離れない時期に合意されたものと推認される。

(6)  更に右契約に際し作成された契約書(乙五号証)においては前認定の契約締結に至る事情を反映し、本契約が使用貸借であるかの如き「無償貸借」「迷惑代」等の用語や内容が記載されているほか、本契約締結の際原告側において本件建物収去後の跡地には原告のアパートを建設し、原告の子を同所に住まわせ同アパート付近の原告所有の永安荘アパートの管理を委ねる予定であることを庄司らに告げたとの証人柴田雄生の証言に沿う「賃料(迷惑代)五〇〇〇円はアパートの管理人に支払う管理費相当額として定めた」趣旨も記載されている。

(7)  右(6)の事実に庄司の前認定の本件土地、建物に対する関与の程度を合わせ考えれば庄司は原告の前記自己使用の目的を了知したうえで本件賃貸借契約を結んだものと推認される。

四以上認定の事実によつて認められる本件建物の規模、構造、本件契約締結に至る事情等の前記諸要素を総合考察すれば本件の土地賃貸借契約は借地法九条所定の一時使用のため設定されたことが明なる場合に該当するものと認めるのが相当である。

五従つて本件建物の買取を請求する被告の主張はその余の点を判断するまでもなく理由がなく、原告の本訴請求は理由があるから正当としてこれを認容すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。 (柄多貞介)

(別紙)目録

一 秋田市手形からみでん一九四番一〇

宅地 280.82平方メートル

二 秋田市手形からみでん一九四番地の一〇

家屋番号 一九四番一〇

木造亜鉛メッキ綱板葺平家建作業場

床面積 49.68方平メートル

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